新天地で奮闘するあるシリアからの難民
2018.05.29 up
アブドゥルバセット・ジャロールさん
シリアでは2011年3月に内戦が始まって以降、命懸けで世界各国に難民となり、家族が離散するニュースが飛び交いました。近隣諸国をはじめ、ヨーロッパ各国で難民となるシリア人が報道され、ブラジル国家難民委員会によると、ブラジルは11年に16人だったシリア人難民が、14年には1326人が難民申請を行い、07年から17年の間にシリア人難民認定者数は2771人に増加し、ブラジルにいる各国の難民者数で最多を占めています。
そんなブラジルに暮らすシリア人難民の1人がアブドゥルバセット・ジャロールさん(28)です。シリアのアレッポで裕福な商家に生まれ、自らも13歳から携帯電話やCDの販売を始め、数年後には店も構えて順調な生活を送っていました。
しかし、20歳で1年半の兵役の義務に就いている最中、シリア内戦が始まりました。現実に徴兵されてダマスカスで任務に当たっていましたが、周囲の友人の多くが天に帰し、まともな生活はおろか命の保証もない状況を見かねたアブドゥルさんは、多くのシリア人同様、命懸けで国境を超え、14年にレバノンから難民を受け入れてくれると即答のあったブラジルに渡りました。
難民ワールドカップで授与されたトロフィーなど
現在は流ちょうにポルトガル語を話すアブドゥルさんですが、サンパウロ到着直後に最初に直面した困難が言葉でした。難民申請するにも言葉が通じず、困っていたところ、難民を支援するカリタス会を紹介され、無事にアラビア語や英語でも手続きはスムーズに行えました。
しかし、その後も困難は続きます。アラブ商人らしく早速始めた商売の宿泊業でしたが、うまくいかず持参金も使い果たして危機に瀕しました。それでも落ち込むことなく、これまで250以上の講演活動を行い、ウーバーの運転手や翻訳業、そして、14年からブラジルで毎年開催される難民ワールドカップのコーディネーターや、16年に正式に始まった難民・移民による難民・移民のためのNGOコラソン・ド・アフリカの副会長も務め、幅広くブラジル社会で活躍し社会貢献しています。
スマートなサービス精神も旺盛で、自宅兼事務所に来客した方には、ささっとアラビア文字で名前を書いてプレゼントするなど、人のハートを瞬時につかんでしまいます。
お客さんにアラビア文字で名前を書いてプレゼントするアブドゥルさん
そんなアブドゥルさんの家族への思いは人一倍。シリアに残された母親とはシリアのインフラの状態が悪く、時々しか連絡がつかないためいつも安否が心配です。早く親孝行するのが一番の夢です。
現在、家族はブラジルを含めて世界7カ国に難民となって暮らしています。肉親の死、爆撃での重傷、子どもとの生き別れなど、アブドゥルさんの家族にも多くのシリア人にも、涙なくしては聞けない、言葉では言い尽くせない悲話は数多に上ります。
「パス・アオ・ムンド(世界の平和)、パス・ア・シリア(シリアの平和)、サラマレイコン(アラビア語であなた方の上に平安をの意味)」
ポルトガル語とアラビア語を交えてアブドゥルさんが合言葉にしているフレーズ。アブドゥルさんだけでなく、世界中に離散したシリア人の心からの願いです。
難民ワールドカップやNGOコラソン・ド・アフリカでも役職のあるアブドゥルさん
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