スペイン

スペイン:バレンシア

大田 朋子(おおたともこ)

職業…ライター、エッセイスト、講演家

居住都市…ブエノスアイレス(アルゼンチン)
→ケント(イギリス)
→バレンシア(スペイン)

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宮本武蔵の引用文が入った「はじめに」の挨拶も興味深かった

宮本武蔵の引用文が入った「はじめに」の挨拶も興味深かった

海外で出版されている日本について書かれた書物に目を通すと、面白い発見をすることも多い。昨今海外での日本食ブームを受けて、様々な国で見かけるようになった「和食レシピブック」もその一つ。


今回手に取ったのは、バレンシア市内に日本食レストランを構えるMomiji cocina japonesa(モミジ・コシナ・ハポネサ)のオーナー兼シェフ、ディエゴ・ラソ(Diego Laso)氏による『コシナンド・ハポン(Cocinando Japón)』(タイトルの意味は「日本を料理する」)。 コシナ・ハポネサとは「日本料理」という意味。

本著では、日本の料理屋でも修業を積んだディエゴ氏が、家庭でできる人気の日本食メニューを厳選し紹介している。スペイン人シェフによる、スペイン人のための、スペイン語の和食のレシピ本だ。

スペイン人に人気がある日本食とは…、どんなレシピが掲載されているのだろう?


近年は寿司以外の日本の家庭料理に関心が向き始めたのだとか。

近年は寿司以外の日本の家庭料理に関心が向き始めたのだとか。

『コシナンド・ハポン(Cocinando Japón)』の掲載メニューは、ダシ、餃子、から揚げ、豚の角煮、シャリ、握りずし盛り合わせ、枝豆、冷奴、卵焼き、アサリの味噌汁、マグロのたたき、酢のもの、焼きおにぎり、茄子の田楽、イワシの南蛮漬け、アンキモ、醤油ラーメン、ウナギの蒲焼き、カレーライス。


著書には包丁のとぎ方から餃子の包み方やもみじおろしの作り方などが詳しく掲載されている

著書には包丁のとぎ方から餃子の包み方やもみじおろしの作り方などが詳しく掲載されている

ディエゴ氏がシェフを務めるMomiji cocina japonesaでは、料理の由来や食材、調理法について、丁寧にお客さんに説明することで評判だ。「スタッフが各料理についてお客さんに説明できるように、いつも料理についての簡単な説明文を用意しています」とディエゴ氏。理由は、「知ればもっと美味しく感じるから」と。


そのディエゴ氏の接客への姿勢が、著書にも随所に表れている。一つひとつのレシピに料理の由来とともに、紹介する料理に関係する、ディエゴ氏の個人的なエピソードや思い出が語られていて、レシピ本としてではなく、書物としても興味深く読めてしまう。


例えば、ディエゴ氏がシェフを務めるMomiji cocina japonesaで人気メニューとなっている「ウナギの蒲焼き」。ウナギの蒲焼きをメニューに入れるとき、ディエゴ氏にとっては、「スペイン人はDulce(甘さ)とGrasa(脂っこさ)の組み合わせが好きだから、人気がでると確信していた」そうだが、スペイン人のなかにはウナギと聞いて顔をしかめる人も少なくない。そこで「美味しくなかったらお勘定はいらないから」と常連客に試してもらうことから始めたという。


また「アンキモ」のエピソードも面白い。アンキモはスペイン語に直訳すれば「イガド・デ・ラペ(HIGADO DE RAPE、アンコウの肝)」だが、「イガド」(肝を意味するスペイン語)というと、スペイン人には食欲を激減させてしまう。そこで、初めてアンキモを試すスペイン人でも心理的抵抗がないように、アンコウを「アンコウの“フォアグラ”」と呼んだ。ネーミングの工夫が功を奏し、いっきに店の人気メニューになったという。


著書のディエゴ・ラソ(Diego Laso)氏にとって「合気道」が日本との最初のそして決定的な接点となった

著書のディエゴ・ラソ(Diego Laso)氏にとって「合気道」が日本との最初のそして決定的な接点となった

ディエゴ氏は日本食店Momijiでシェフを務めるだけでなく、各種イベントや結婚式、パーティへなどへの寿司職人の出張サービスや、ケータリング、和食の料理教室を開催している。

日本食ブームが始まった頃の料理教室では、みんな習いたがったことといえばお寿司の巻き方であり、受講生といえば流行に敏感な女性が中心だったそうだ。それがこの数年で男性の受講者が増え、人々の関心もお寿司以外の家庭料理に広がったのだとか。「マラソンをした後料理教室に来る人もいる。健康を意識する人の多くが和食に興味を持つ」とディエゴ氏。


日本人シェフが紹介する日本食のレシピブックと違って、日本とスペインを両方知っているスペイン人シェフによって、思いを込めて選ばれたメニューの紹介を見ると、「海外で受ける和食メニュー」に一定の傾向が見えたりもする。

何より、本著の魅力は、紹介されているどのメニューにもディエゴ氏の個人的な思いが詰まっており、彼の日本や日本料理に対しての真摯な姿勢への敬意とともに、ほのぼのとした温かさが残ることだ。



★本の情報『Cocinando Japón(コシナンド・ハポン)』
http://taketombobooks.com/libro/cocinando-japon
・値段:15ユーロ
・著者:Diego Laso
・出版社:Taketombo Books
*QRコードでスマホの端末から調理法がビジュアルで確認できるようになっている。
また、ウェブサイトでも掲載メニューの説明と手順が写真とともに紹介されている。

★お店の情報:Momiji cocina japonesa(モミジ コシナ ハポネサ)
Calle Jorge Juan, 19, 46004, Valencia.
Mercado de Colon 46004 Valencia
http://momijicocina.es/
*昨年末に行われたリニューアルのあと、新モミジとして一新されたメニューも評判になっている。





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