MRT板南線(バンナンシェン)の江子翠(ジャンズーツイ)駅
日本でも既に報道されていますが、5月21日16時台(台湾時間)、台北市と新北市を結ぶ交通機関MRTの車両内で大学生の男が約5分間にわたり刃物で乗客を切りつけ、4人死亡、24人が重軽傷を負う事件が起きました。
男は、到着した江子翠駅で取り押さえられ、逮捕されましたが、MRTの板南線は江子翠ー亞東醫院(ヤードンイーユエン、板橋區にある総合病院)区間で一時、単線運行になるなど影響が出ました。
台湾では前例がないタイプの事件で、社会に与えた衝撃は大きく、市民の中には「(事件の再発が恐くて)MRTには乗れない」と不安の声を上げる方もいるようです。
報道では、事件の被害にあった方やその家族らの様子を紹介しているだけでなく、犯人の背景に迫る特集やドキュメントが出てきていますが、私はそれらよりも現場の様子が気になり、江子翠駅へ行くことにしました。
江子翠駅の3番出口に供えられた花
台北駅から江子翠駅へ向かう板南線の車両に乗ると、その前の龍山寺(ロンシャンスー)駅と江子翠駅間が長く感じられます。通常、台北地区のMRTは、駅と駅の間は1~2分程度ですが、この区間を通る際に腕時計を使って計ってみたら、約3分でした。
この区間で事件が起きたのですが、実際に乗ってみると台北市と新北市の境にある大型河川の淡水河の地下を通っていて、その分、運行区間が長くなっているのが分かります。限られた空間の中で密室になる時間が長いので、犯行中、現場に居合わせた方々の恐怖を察すると同時に、犯行そのものの残虐性をうかがわせます。
犯行の時間帯から判断すると、オフピークで乗車している人が少ない時間帯ですが、これが「もし朝のラッシュ時だったら……」とか、「板南線で乗車率が一番高い台北車站(台北駅)ー忠孝復興間で起きたら……」と考えると背筋が凍ります。
犠牲者に向けられた供養の言葉も貼られています
現場になった江子翠駅ですが、当然の如く、事件当時あった血痕はきれいに洗い流され、それを感じさせないようになっていますが、MRTの駅では通常1人いるかいないかの警察官を7人以上見かけ、台湾社会における事件の衝撃の大きさも、この様子から見てとれます。
また、MRTの各駅には警察官の姿が多く見られ、時々、車両の中を警官が巡回しているので、その警備の厳重さは911テロ事件前後のアメリカを思い出させるものでもあります。
TVの中継車両も来ています
駅の外を出て、3番出口へ向かうと、お供えの花や犠牲者への供養の言葉が書かれたメッセージがびっしり貼られていました。また、周囲を見渡すと、TVの中継車とその取材クルー、新聞のカメラマンとみられる方が張りつき、献花の様子を撮影していました。
献花する人は絶えず訪れました
上の写真は5月23日12時台の様子ですが、献花する人は絶えず訪れ、手を合わせる姿も多く見られました。
事件の犠牲になった方々の家族と周囲の方の悲しみ、犯人への怒りはすぐに消えるものではありませんが、それと同時に犯人の男の家族、特に大学生である犯人の両親は今後、針のむしろに座らされるような心境で日々過ごすことになるかと思うと、複雑な心境です。
台湾のニュースで出ていますが、5月27日に江子翠駅(見ている限り、上の写真のところ)で献花に訪れた犯人の男の両親が報道陣の囲み取材に応じ、被害者の家族への謝罪を涙ながらに行ないました。
しかし、亡くなった4人の遺族の反応は、この両親の心中を察する方もいる一方で、「現場ではなくて、(まずは)私たちのところへ来るのが筋では? 実際、私たちはそこにはいませんから」とか「いくら謝罪されても(亡くなった家族は)帰ってこないし、何の償いにもならない」など厳しい言葉が並び、かえって神経を逆撫でした格好になったようです。
様子を見ていると、いわゆる「メディアスクラム」によって、この両親だけでなくその親族と周囲の方々が加熱する取材攻勢によって精神的に追い込まれ、悲しい結末を迎えるのではないかと心配になりますが、皆さんはいかがでしょうか。
最後に、この事件で亡くなった方のご冥福を祈ると同時に、被害に遭われた方の早期回復を祈ります。
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